「血糖値の異常」と聞くと、「自分には関係ない」と思う方も多いでしょう。
しかし、血糖値スパイクは、「意外な人達」にも起こることが知られています。
例えば、
・健診で「血糖値に異常無し」の人
・日ごろ食事量をセーブしている人
・少食の人
・痩せている人
このような人達でも、血糖値スパイクを起こすことがあります。
ランチの後、強い眠気に襲われる。
あるいは、
夕方空腹時にだるくなり、脱力感が起こる。
これらは、血糖値スパイクによる症状かもしれません。

今回は、誰にでも起こり得る「血糖値スパイク」について、予防法も含めてご紹介します。
血糖値スパイクとは?
通常、食後に血糖値は緩やかに上昇し、ピークに達した後に緩やかに下降します。
そして、食後3~4時間後には、元の空腹時の血糖値に戻ります。
ところが、血糖値のコントロールがうまくいかないと、食後に血糖値は急上昇して「食後高血糖」を起こします。
短時間でピークに達した後、その反動で血糖値は急降下。
食後3〜4時間後には、何事もなかったかのように元の空腹時の血糖値に戻ります。
あるいは、高血糖の反動で下がりすぎて低血糖状態になることもあります。
これが、血糖値スパイクです。
健康診断では、主に空腹時血糖を検査するため、食後高血糖を起こしていても異常は見つかりません。
血糖値スパイクは無症状のこともありますが、多様な症状を引き起こすこともあります。
血糖値スパイクの問題点
血糖値スパイクによって引き起こされる、3つの問題について解説します。
◆食後高血糖時の強い眠気
食後に眠くなる原因は諸説ありますが、血糖値に関係する『オレキシン』という脳のホルモンが注目されています。
オレキシンには、睡眠や食欲、糖利用などを制御する複雑な作用があります。
正常な体内リズムでは、日中の活動期にオレキシンの分泌は促進され、夜間に分泌は抑制されています。
オレキシンの作用を簡単に表現すると、
「眠気を抑える作用(覚醒作用)」
「食事を促す作用(食欲促進作用)」
「筋肉での糖利用の促進」
などがあるのですが、血糖値が必要以上に高くなると日中でも脳からのオレキシンが分泌が抑制されてしまい、強い眠気が起こります。
「ランチの後の強い眠気」には、このような原因があると考えられています。
◆反応性低血糖
食後の血糖値調節がうまくいかず食後に高血糖が起こると、血糖値を下げる「インスリン」が遅れて大量に分泌されるケースがあります。
すると、食後ピークに達した血糖値が急降下し、3〜4時間後には下がりすぎて低血糖が起こります。
低血糖の症状は多様ですが、無症状の場合もあります。
【低血糖の代表的な症状】
冷や汗、動悸、手指のふるえ、強い空腹感
脱力感、頭痛、眠気、イライラ、不安感、集中力の低下
夕方空腹時に起こる不調は、反応性低血糖が原因かもしれません。
◆動脈硬化・糖尿病
「血糖値スパイク」の問題点は、上記の症状だけではありません。
たとえ無症状でも、「血糖値スパイク」を繰り返していると、血管が傷ついて動脈硬化が起こると考えられています。
そのため、脳梗塞・狭心症・心筋梗塞になりやすく、血管が詰まって突然死を起こす危険性もあります。
また、血糖値スパイクを放置すると、糖尿病に移行する確率が高くなります。
血糖値スパイクの有無をチェックする方法
食後の強い眠気や、空腹時の反応性低血糖症状があれば、血糖値スパイクを起こしていることが推測できます。
では、無症状の血糖値スパイクの有無は、どのようにチェックすればよいのでしょうか?
2つの方法をご紹介します。
◆ブドウ糖負荷試験
ブドウ糖負荷試験は、ブドウ糖液を飲み、血糖値がどのように変化するか調べる検査です。
ブドウ糖を飲む前(空腹時)と、飲んだ後(30分後、1時間後、2時間後)の血糖値を測ります。(合計4回血糖値を測る)
保険診療では、糖尿病や、糖尿病の疑いがある人が受ける検査です。
それ以外の人は、人間ドックや健康診断のオプションなどで検査することができます。
ブドウ糖負荷試験では、普段の食事で血糖値スパイクを起こしているかどうかはわかりませんが、血糖値スパイクを起こしやすいか否かを推測することができます。
◆FreeStyleリブレを用いた持続血糖測定
『FreeStyleリブレ』という測定器を使うと、簡単に血糖値の変動をグラフで見ることができます。
小型センサーを上腕に装着して、読取装置で血糖値データを読み取るだけです。
1個のセンサーで最大14日間の血糖値データをグラフかできます。
これなら、普段の食事で血糖値スパイクを起こしているかどうかが一目瞭然です。
血糖値スパイクの具体的な血糖値は明確に決まっていないようですが、食後血糖値のピークは140以内が理想とされています。
FreeStyleリブレを用いた持続血糖測定について知りたい方は、
『自分で血糖値を測る方法/FreeStyleリブレ』をご覧ください。
血糖値スパイクの予防法
血糖値スパイクは、必ずしも「食べ過ぎ」が原因ではありません。
同じものを、同じ量食べても、血糖値スパイクを起こす人と起こさない人がいます。
「血糖値スパイクの起こしやすさの違い」によって、単に糖質を摂り過ぎなければ予防できる人もいれば、「普通より糖質控えめ」にしても高血糖を防げない人もいます。
「血糖値スパイクを起こしやすい原因」には、体質や生活習慣、食習慣、ストレスなど様々な要素が関わっていると考えられるため、原因を1つに特定することはできません。
そのため、血糖値スパイクの予防方法も1つではありません。
今回は、3つの予防法をご紹介します。
◆生活習慣の改善
まず、生活習慣の改善は必須です。
軽視されがちですが、これは侮れません。
血糖値は、多くのホルモンや自律神経のバランスによって制御されています。
複雑な仕組みで制御されているゆえに、少しの生活習慣の乱れが血糖値コントロールに悪影響を与えます。
いくつか具体的に改善するポイントを解説します。
日中は活動的に過ごし、夜は十分な睡眠をとる
血糖値調整に関係するホルモン分泌や自律神経の働きは、基本的に生体内のリズムによって制御されています。
「昼間は活動し、夜は休む」リズムが崩れると、血糖値コントロールにも悪影響が現れます。
食事はよく噛んで、時間をかけて、味わって食べる
噛むことで分泌が促されるホルモンもあります。
腸管から分泌されるGLP-1というホルモンは、血糖値が高くなると分泌されて、血糖値の上昇を抑えるように働きます。
よく噛んで食べると、GLP-1の分泌量が亢進します。
早食いは血糖値の急上昇の一因になります。
さらに、味覚によって活性化する神経もあります。
先に紹介した『オレキシン』の働きは、味覚によって活性化するという実験データがあります。
オレキシンの働きで、筋肉での糖の利用が促進され、血糖値の上昇が抑えられます。
食事は、サプリやドリンクなどで、単に栄養を摂取すれば良いわけではないのです。
ストレスを減らす
ストレスを感じると交感神経が活発になり、血糖値を上昇させる様々なホルモンが働いて血糖値を上昇させます。
「ストレスホルモン」と呼ばれるコルチゾールの分泌量も増えて、血糖値が上がりやすくなります。
適度な運動で筋肉量を増やす
食後、血液中に増えたブドウ糖(血糖)の一部は筋肉に取り込まれます。
筋肉量が減るとブドウ糖をためる場所が少なくなるため、血糖値が下がりにくくなります。
◆食事の摂り方を工夫する
ベジタブルファーストやミートファーストなど、食事の順番で血糖値の上昇を緩やかにする方法があります。
ベジタブルファーストは有名になったので、実践されている方も多いですね。
食事の最初に、サラダなどの野菜を5分以上かけてゆっくり食べてから、主菜(おかず)を食べ、最後に主食(ご飯など)を食べると血糖値が急上昇しにくくなります。
ミートファーストは肉を最初に食べて、次に野菜類、最後に主食(ご飯など)を食べる方法です。
肉などのタンパク質や脂質を含む食材を糖質食材より先に食べると、前項で紹介したGLP-1分泌が促進され、血糖値の急上昇を防ぐことができると考えられています。
どちらの方法も、主食の糖質食材を最後に食べます。
他にも、主食の穀物を未精製の全粒穀物(ホールグレイン)に変えると、精製穀物より血糖値の上昇を緩やかにできます。
例えば、白米を玄米に、パンを全粒粉のパンに変えるといった方法です。
◆糖質の摂取量を減らす(糖質制限)
糖質摂取量を制限すれば、血糖値スパイクは簡単に予防できます。
しかし、糖質制限は正しく行わないと、栄養不足など他の健康問題が生じかねません。
糖質摂取量を減らしても、他の栄養素やカロリーは必要量を過不足なく摂取する必要があります。
単に、いつもの食事から糖質を差し引けばよいのではありません。
一般的な糖質制限食は、糖質を控える一方で、タンパク質の摂取量を増やします。
さらに、足りないカロリーを良質な脂質で補います。
栄養摂取バランスについての解説は、
『慢性的な「だるさ」や「うつ症状」は栄養不足が原因かも!不足しがちな栄養素とは?をご覧ください。
糖質をどのくらい制限すれば血糖値スパイクを起こさないのかは、人によって異なります。
食事時間、食事の内容など様々な条件によっても変化します。
FreeStyleリブレを用いた持続血糖測定を行うと、自分がどのような条件で、どのくらいの糖質量を摂取すると血糖値スパイクを起こすのかがわかります。
まとめ
血糖値スパイクの予防は、健康を維持するためにとても重要です。
自覚症状が無くても、一度検査でチェックしてみることをおすすめします。